維新の陰に女あり 幕末の京、名妓君尾が接した志士の群像。本邦初の「女の維新史」
勤王芸者
 小川 煙村
 マツノ書店 復刻版 *原本は明治43年
   1996年刊行 A5判 並製(ソフトカバー)函入 232頁 パンフレットPDF(内容見本あり)
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『勤王芸者』 略目次
・ 憂国の志士皆能く遊ぶ
・ 高杉井上に切腹を教へる
・ 御殿山の焼討
・ 井上聞多の和歌一首
・ 国の為めには貞操も破れ
・ 世にも名高き寺田屋騒動
・ 久坂玄瑞の風流情事
・ 禍の基は女色から
・ 勤王志士の襲撃
・ 島田左近の最後
・ 洋行が出来ねば切腹ぢや
・ 井上伊藤洋行の苦心
・ 井上聞多暗殺に逢ふ
・ 足利尊氏の首を斬る
・ 君尾近藤勇に口説かる
・ 長藩士と新撰組
・ 鎗の穂先の露と消ゆるか
・ 鉄扇で横面を殴る
・ 久坂玄瑞の恋の発端
・ 易者久坂の一身を予言す
・ 久坂の一喝、井上の箒
・ 島原太夫と新撰組
・ 大鋸を振廻す新撰組
・ 長州勢退京の由来
・ 薩人黒谷の会津を襲ふ
・ 薩摩武士の切腹
・ 長州藩の憤慨
・ 久坂よりお辰に与ふる手紙
・ 池田屋騒動の顛末
・ 長州大挙して来る
・ 蛤御門の激戦
・ 久坂寺島のたち腹
・ 長州の落武者祇園町へ来る
・ 義士天王山に死す
・ 桂小五郎と芸妓幾松
・ 伊藤俊介出雲の神となる
・ 其相棒は広沢兵助
・ 西郷隆盛と豚姫
・ 南洲翁に肱鉄砲を食はす女
・ 老いて楽する勤王芸妓


 「女」の維新史を推薦する
     奈良本 辰也
 「男」のために書かれた維新史の本は多いが「女」のためとして書かれた本は、少ない。という文章が冒頭に掲げられて『維新侠艶録』という本が出版されたことがある。昭和3年に出た井上月翁という人の著書だ。
 敗戦以来、女性の地位は大きく上がり、男性史ならぬ女性史が人々の注目を浴ぴてきた。しかし、その女性史も、こと維新史に関する限り従である。私もずいぶん小説やエッセイなどで、維新史を扱ってきたが、この『維新侠艶録』のように、それを突きつけられると、やはり気になるのである。
 その『維新侠艶録』より十八年も前に刊行され、著者の井筒月翁が大いに参考にしたと思われるのが、このたぴ復刻される『勤王芸者』である。
 防長出身の志士は、さすがに多い。桂小五郎・高杉音作・井上開多・久坂玄瑞・晶川弥二郎に至るまで、京都などで芸者の膝枕に一服のやすらぎを与えられた。『勤王芸者』は、そのことごとくを明らかにしている。もちろんそれは恥ずかしいことではない。尊皇攘夷のはげしい政治がなせる業なのだ。
 この著者の語り口は、いかにも時代物を思い出させる親しみやすい口調である。私は以前、得富太郎氏の『幕末防長勤王史談』全十巻を読んだことがあるが、その語り目とどこか相通じるようなものがあった。いや語り口だけではない。全体の構成にもそれを感じさせるものがあった。

 さて、本書の筋書きは、勤王芸者としての君尾という女性が中心となって展開される。まさに女から見た椎新史である。
 でも、芸者の活動範囲は限られている。祇園に納まっている場合はそれでよいが、それだけでは面自くない。その彼女に他から口がかかって、外に出てゆくこともある。話はそこから発展する。九条家に食い込んで権勢をふるっていた鳥田左近や、新撰組の近藤勇なども、そうした一人であった。佐幕派といわれる連中が、彼女の美貌と才知に目を付けこれを近くに呼ぴ寄せるのだ。
 彼女としても、それを拒むことはできない。そこに新たな展開が考えられるのであるが、それも幕末史の一局面である。いや重要な一場面と言ってもよい。そうした幕末史の裏面を知ることができるのも、この一書であろう。初めて刊行された「女の維新史」として広く江潮に推薦したい。
(本書パンフレットより)