毛利元就軍記考証 新裁軍記 | |
田村 哲夫・校訂 | |
マツノ書店 | |
1993年 A5判 上製 函入 804頁 パンフレットPDF(内容見本あり) | |
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『新裁軍記』の成立 元山口県文書館専門研究員 田村 哲夫 |
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長州萩藩毛利家の藩祖元就公の軍記物としては、藩政初期から私撰の覚書・物語類が多く世に出ていたが、官撰としては五代藩主吉元公が享保九年(1724)に史官永田瀬兵衛政純と徳田幸助良方の二人に命じて家門の系譜を撰修せしめられた。 これが二十四年を経て献上された『江氏家譜(三冊)』である。ついで、元就公の行実を編年体の『御軍記(六冊)』として、御内用掛(のち密用方)の永田政純を主任に、山県庄助(周南)・小田村文助・小倉彦平(鹿門)・山根七郎左衛門(華陽)に編集せしめられた。 元文三年(1738)のことで、寛保五年(1741)に完成した。これが後の『新裁軍記』であり、当藩における官撰の編年史の初めである。 山口県文書館の毛利家文庫目録・軍記類『新裁軍記』の解題文によると「十二巻途中までは前記『御軍記』と略々同内容。体裁も同じで綱文のもとに概説し、典拠の史料を揚げて論断を加えている。全編の体裁や写相などから見て稿本と思われ、十五巻以下には中題に稿の字が加えてある。所々に付箋があるが、その筆蹟は永田政純のようで、前掲の『御軍記』を改訂増補=新裁したもの。」という。 『もりのしげり』の旧長藩職役一覧表に「新裁軍記掛 文政三年六月二十九日 中村九郎兵衛ニ後篇書継ヲ命ス」と見える。文政三年(1820)に書継ぎを命ぜられた中村九郎兵衛(名は敬。華嶽と号す)は藩主の侍講より明倫館学頭となる。天保七年(1836)死去しているが、後編とは何巻目からか、その終功年代も不明である。 本書を出版するに際し、原題の『新裁軍記』のままでは一般に周知されていないことを思い、敢えて副題として「毛利元就軍記考証」の語を添え、本書の内容を表さんとした次第である。 (本書「あとがき」より) |
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戦国時代史研究の飛躍的な発展 元広島大学文学部長 松岡 久人 |
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この『新裁軍記』は永正十四年(1517)十月から永禄六年(1563)年末に至る間の、毛利家の編年体の歴史書である。元文三年(1738)十一月に着手され、寛保五年(1741)五月に元就時代分の大部分が完成を見ている。 わが中国地域の戦国時代を概観すると、安芸武田氏の伝統的支配に対する毛利氏の反撃、山陰の雄族尼子氏の中国山地を越えて備後安芸方面への侵略と大内氏による毛利氏等への軍事的支援、大内氏による尼子氏本拠地富田への大遠征、陶晴賢の大内義隆弑逆と厳島の戦、元就の防長統一、豊前方面での毛利・大友の抗争、毛利氏の石州諸豪族経略と尼子氏攻撃等々、まさに戦国の名にふさわしい軍事行動の連続であって、その間に数多くの智将勇兵のめざましい活躍が見られた。 これら多くの軍事行動と、その間における名将・勇士の活躍は、当代を生き抜いた人々の語り草であっただけでなく、後代の人々にとっても興味尽きせぬ話の泉であったらしい。そこから、近世になって『吉田物語』や『陰徳太平記』などの軍記が編み出され、世に広まっていった。元和偃武(えんぶ)ののち、平和の到来とともに軍記物への需要の高まりに応じて、広く版行による販売も採算が立つようになり、この『新裁軍記』巻一にも、寛文のころ浪人・僧侶が相はかって、毛利家の軍記という触れ込みで、大坂において『関西記』という軍記を版行した話を載せている。本書が『新裁軍記』と命名された背景には、それら世にはびこる軍記類の興味本位とも見られかねない内容に対する批判の意味が込められていると思われる。 本書の内容を一言を以て言えば、世に膾炙し流布する興味本位とも評される軍記物の内容に対して、御家蔵文書、現在の『毛利家文書』を始め『閥閲録』や、それと同時期の編集になる『寺社証文』等に所収の、藩士・寺社・百姓等より撰出された、当該時代の一等史料たる古文書の博捜.分析を通して得られる客観的史実を対置し、「誤謬ヲ去テ実説ヲ記スル」ものである。それはまさに近代歴史学の目ざす実証主義と符合するものといえよう。 明治以降確立されてきた近代歴史学における本書の処遇ないし利用状況について見てみよう。東京大学史料編纂所の前身である史料編纂係は『大日本史料』の稿本を作製するにあたって、その綱文と典拠史料名を集めた『史料綜覧』を編集した。同書はその後刊行され、『大日本史料』の未刊の年代については、研究者に広く利用されていることは周知のところであろう。同書のうち例えば永正十四年十月二十二日の条には、「安芸武田元繁、同国今田城二拠リ、吉川経基ノ属城有田城ヲ攻ム、毛利元就、自ラ同城ヲ援ケ、是日、元繁敗北ス、」という綱文を立て、その典拠史料を列挙しているが、その中に『新裁軍記』が挙げられている。『史料綜覧』にはこのほか随所に『新裁軍記』が典拠史料として引用されている。 そこで、『史料綜覧』の記載を拠り所として、『大日本史料』において該当年月日の条を尋ねれば、『新裁軍記』の原文に到達できる仕組みになっているのであるが、残念ながら『大日本史料』のうちでもこの時期のものは未発行の部分が多いため、『大日本史料』によって『新裁軍記』の原文にお目にかかれるものはごく限られている。したがって多くの場合、史料編纂所架蔵の写本ないし山口県文書館の原本に頼らねばならなかった。 このたび、多年山口県文書館に勤務され、『萩藩閥閲録』など史料の刊行をはじめ、防長関係の歴史研究に豊富な実績を積まれた田村哲夫氏の厳密な校訂により、山口県関係の各種史料の刊行を手がけてこられたマツノ書店より、本書が刊行される運びとなった。 拝見すると、原本に行書体で記された古文書類はすべて楷書体に翻刻され、初心者の利用への配慮もなされている。 本書の発行は、前記のような状況に照らして極めて有意義なことであり、これにより、直接的には中国地域より北九州にかけての戦国時代史研究の飛躍的な発展が期待できると信ずるものである。 (本書パンフレットより) |
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